アスベスト由来の労災認定について
たまには現在、専門としているアスベスト(石綿)について。
今月1日よりドイツでは労災認定疾病が5つ増えた。その一つがアスベスト(石綿)由来の卵巣癌である。
今、ドイツで騒がれているディーゼル車からの大きな問題の一つは窒素化合物の持つ高い発がん性だが、これと同様、発がん性物質グループ1に属する有害物質のひとつが石綿がある。(発がん性物質グループ1に属するものとして、窒素化合物、石綿、タバコ、プルトニウム、ヒ素など)
日本国内では石綿による労災補償や救済の対象になる疾病とし、職業病リストに例示されているのは肺線維症(石綿肺)、悪性中皮腫、肺がん、良性石綿胸水、及び慢性胸膜肥厚であると聞く。
ドイツの場合は今日まで次の4点が石綿による職業病して認められていたが、これに石綿由来の卵巣癌が加わる事になった。
(石綿による職業病)
● 4103 アスベスト症(石綿肺)およびアスベストに由来する胸膜の疾病。
● 4104 石綿由来の肺癌または咽頭癌
● 4105 石綿由来の胸膜・腹膜・心膜の中皮腫
● 4114 石綿繊維と多環芳香族炭化水素の相互作用による肺癌
世界保健機関 (WHO) は以前から卵巣癌と石綿の関係を指摘しており、ドイツではドイツ連邦労働社会省(BMAS)下の職業病専門委員会(ÄSVB)により各種学術論文の調査及び認定基準の検討が行なわれてきた。
通常、呼吸によって取り込まれた粉塵や微粒子の多くは繊毛(線毛)の働きで気管から排出され、気管の粘膜と一緒に経口で排出されるか、または消化器官に運ばれる、最後は食物の残りと共に排泄される。
しかし石綿繊維はその細さ故に肺胞の奥へと取り込まれ、沈着する。また一部は肺からリンパ管を通って他の箇所へ運ばれる事も可能である。体内へ石綿という異物が入ってきた為、免疫システムが反応するのだが、異物自体、つまり石綿繊維が消えない為、免疫反応により慢性的に炎症がおこる。これが長期化すると細胞が変化し、ガン化する事がある。
今回の調査に関しては石綿の吸入量と卵巣癌との直接的な数字データー、また直接的な臨床所見が無いのだが、多くの学術的論文及び記載のデーターより、職業病専門委員会は『石綿繊維は消化器官の壁を貫通し腹膜などに移行する事もあり、リンパ管だけではなく、血液により体内に運ばれ、また胸腔・腹腔への蓄積も可能』『よって呼吸によって体内に運ばれた石綿繊維は他の癌の原因になる可能性が十分にある』と言う見解に達した。
これにより卵巣癌を労災疾病とする結果となり、当時石綿紡績工場などに勤めていた女性達も労災認定の可能性がでてきた。
なお認定基準は次の通りである。
●アスベスト症(石綿肺)との関連
●石綿繊維に由来する胸膜の疾病との関連
●または累積石綿曝露量:「25繊維×年」の立証
しかし現実的には労災が認められるまで多くの書類、時間、エネルギーが掛かる。現在ドイツでは毎年約10000人が石綿由来と思われる疾病を発病している。しかし労災認定にいたる数は全体の1/5だと言う。労災認定をした場合、石綿患者に掛かる費用は一人あたり、平均約350,000ユーロ、日本円で約4500万。労災保険を払う側の保険機関にとっても大きな額である為に、容易に労災を認定するわけにはいかないと言う。
病気自体への不安、働けない事や病気治療で掛かる費用による経済的負担、この2点が患者と家族に重く圧し掛かる。
現在ドイツでは様々な原因により卵巣癌に罹患する女性が毎年約8000人以上だと聞く。少しでも多くの患者に救済の手が差し伸べられる事を切に願いたい。
ソース:ドイツ連邦労働社会省(BMAS)、ドイツ法的職業保険組合(DGUV)、ドイツ公共放送連盟(ARD)レポート“Die tödliche Faser“ 他