ドイツ・環境・自然

環境の国って言われるドイツだけど、色々とジレンマがあるみたい。環境・自然を中心に日常の事書いています。

子供の中皮腫の話

イギリスの9月のニュースで14歳の少女が中皮腫を病んでいるという記事を読んだ。

 

通常、中皮腫の主な発生場所は胸膜で、その原因の一つにアスベスト繊維がある。これが肺組織に刺さる事が疾病の原因だと言われている。なお発病するまでに長い歳月がかかり、石綿曝露から30-40年経ってから発病するケースが多い。但し潜伏期間15年未満で発病してケースもあると聞く

 

しかし子供の中皮腫というのは極めて稀である。更に驚くべき事に彼女のケースは腹膜に腫瘍ができた腹膜中皮腫であるという。腹膜にできる中皮腫は胸膜の中皮腫よりさらに稀であり、割合を見るとおおよそ腹膜:胸膜=2,5:7である

また現在イギリス国内で腹膜中皮腫を患っている子供の数が9人、世界規模でも20人ほどだと言われている

 

さてこの少女の名前はメイシーちゃん。今年3月に中皮腫がみつかった。現在までに4回もの化学療法が実施されているが、なかなか良い結果が現れず、今年8月に入り手術による患部の摘出も検討されたが、検査の結果手術は適さないという事で実施にいたらなかった。

 

現在は治験を兼ねての薬剤療法に希望を託しているという。

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しかし実際どうして14歳の少女がアスベスト由来の癌になったのか?担当医を含め家族や関係者は頭を悩ませている。

 

中皮腫の発生率は60歳代、70歳代が多い。また胸膜に発病する割合の方が圧倒的に多い。

しかし論文等を検索すると腹膜中皮腫の場合でも、石綿曝露の関与が示唆されている。よって腹膜中皮腫の原因の一つもアスベストだと言って良いだろう。

 

しかし小児若年成人では聊か事情が異なるようである。

 

まず中皮腫全体で見ても小児・若年成人の中皮腫患者は世界規模でも300例ほどであると聞く。またこれらの若い患者の場合、生活史のなかでアスベストとの接触や曝露経験がはっきりしない事が大半である。よってアスベスト曝露歴を確認する事は極めて難しいのが現状である

 

簡単にアスベストとの接触・曝露の可能性を挙げ見ると

・・1)アスベストに接触・曝露した大人がその粉塵を自    宅に持ち帰った場合の家庭内曝露 

・・2)学校にあるアスベスト建材からの粉塵との接触・    曝露(もちろん自宅にあるアスベスト含有健         材からの可能性もある)

・・3)環境曝露(空気中や土壌中にあるアスベスト繊維    との接触・曝露

・・4)アスベスト含有の雑貨との接触、曝露(チョー     ク、クレヨン、粘土など)

※今年の春先に子供用のキラキラメイクや化粧品にアスベストが混じっており、店頭に並んでいる一部の子供用化粧品を下げるよる欧州加盟国内で緊急指令が流れたのは記憶に新しい。

 

などがある。家庭内曝露や学校曝露、また雑貨や玩具が汚染源になっている場合には家族や他の児童にも被害が生じる可能性は十分にある。また環境曝露の場合もまったくの偶然も考えられるし、何らかの汚染源が近隣に有り、今後、患者が増える可能性もある。

 

しかし通常は中皮腫の発病までに数十年かかる為、年齢が低い子供の中皮腫では家庭曝露、環境曝露はなかなか考えがたい。

だが子供時期に起こったアスベスト曝露で発ガンリスクは高まる事は十分考えられている。

 

また詳細がはっきりしない事のひとつに子供の中皮腫の根源がアスベストであるかどうかという点も挙げられている。いくつかの論文では放射線曝露、イソニアジド系の薬剤による副作用、また遺伝的な要因でも中皮腫になる可能性があるという。

 

下記に様々な考察簡単に紹介する

 

・・) 放射線曝露

 

いくつかの小児癌の研究では放射線曝露も中皮腫の原因になりうると言う報告がある。例えば幼少期に特定の癌に対する放射線治療を受けた場合など中皮腫リスクが高まる可能性があるという。また実際にこの放射線治療を幼少期に受けた子供の患者2名でその後、中皮腫が確認されているという。

(※この特定の癌というのは小児の腎臓に発生する悪性腫瘍でウィルムス腫瘍と呼ばれている。抗がん剤が比較的効きやすく腫瘍のステージにもよるが80%以上で治癒が期待できると聞く。)

 

・・) イソニアジド曝露

 

出生前のイソニアジドという薬剤曝露でも中皮腫になる可能性が無くはないとも聞く。動物実験では母体にイソニアジドを注射する事で、胎児で肺癌が確認されている。ただし人では現在1例のみ確認されているという。

(※この薬は主に結核に対して使用される。ちなみに結核は感染力が強く空気感染する病気で、世界規模でみるとまだまだ死者も多い。また発展途上国だけでなく先進国でも感染者は多く、東京都の感染症情報センターによると日本でも約2万人が毎年新たに報告されていると言う)

 

・・) 遺伝性による癌

 

またほかの要因として遺伝的な要素も考えられる。(遺伝性がんと言う。)これは子供の遺伝子に何らかの変異があり、それが原因となりうる事例である。2013年に発表されて論文だとBAP1と言う遺伝子に問題があると中皮腫などの癌の発生率が高まるという。またこの遺伝変化は親から子へも伝わるという。この遺伝変化により少量のアスベストやそれに似た物質、例えばエリオン沸石(※人に対する発癌性が認められている)やゼオライト(人に対する発癌性が分類できない)などにも過剰反応し癌を引き起こすのではないかと考察することもできる。

 

子供の中皮腫患者を調査したデーターがあるがそれによると80人の患者のうち、2名でのみ幼少時代でのアスベスト曝露があり、また他の2名においても他の危険因子による曝露があったと報告されている。しかし残りの76名に関しては原因不明だと言う

 

さらにネットサーフィン、論文検索をしてみたがやはり若年層(20代)での中皮腫患者では幼少時にアスベストと接点があった、またはあった可能性がある事例もいくつかあるが、10代の患者を含め多くの場合には原因不明であることの方が多いようである。

 

大人でも子供でも病んでいる人も見ると痛々しく辛い。しかし当人は更に辛い事だろう。彼ら達が、心穏やかに過ごせる時間が少しでも多く増える事を願ってやまない。

 

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ソース・文献 

) dailymail.co.uk

) asbestos com

) Mesothelioma in child with prenatal exposure to isoniazid

) Mesothelioma of childhood