裁判所からの石綿除去命令
昨年ドイツの地方裁判所で石綿対策に関する裁判がおこなわれた。
裁判所に意見を求めたのはマンション(もしくは団地)のオーナーとその建築物の管理会社である
事の発端は上記の住居でよくあるビニールタイルが張られている床のリフォームが行われ事にある。
前回「情報提供」の話を書いたがドイツではまだまだ努力義務のように「情報提供をする努力をしなさい」と言う感じである。よって今回、石綿含有の検査はおこなわれなかった。
それを懸念してか住民から匿名で石綿飛散を心配する電話が役所にあった。そして役所が調査に行き、この建築物のオーナーに石綿検査を要求。その結果タイルを貼り付けていた接着剤にアスベスト含有石綿含有が発覚したという。
幸いにも飛散がなかったので「情報提供」を怠った事では法的な罪にはならない。
さてここからが本題。
このマンション(もしくは団地)ではリフォームをする際にビニールタイルを剥がし、石綿含有を知ってか知らずかその下の層にある接着剤の層を薬品で固め、そしてその上に新規の床をひいた言う。
これが今回の論争でテーマである。
調査に来た役所は飛散調査を要求しただけではなく、上記の方法による封じ込め・囲い込みをを認める事は出来ないとし、工事にストップをかけた。
オーナー及び管理会社は役所にリフォーム工事を中断された事を不服とし、このリフォーム計画は安全であり、計画上も実質的にも石綿繊維の飛散もなかったので問題になるような事はおこなっていないとし、裁判所に訴えた。
ドイツでは吹きつけアスベストの関しては除去以外に封じ込めや囲い込みを行う事で一時的(と言っても数年から数十年)に飛散のリスクを下げる対策が認められている。なお封じ込めや囲い込みをした場合、定期的に飛散がないかどうか検査をするという。
また石綿セメントやスレートの屋根などは表面をコーティング加工することは禁止とされているたま、実質的には薬剤による封じ込めはできない。また石綿含有のスレートの屋根を太陽光発電の為のパネルなどで覆うことも禁止とされている。よって石綿セメントに関してはこの禁止事項の拡大的解釈とし囲い込みも禁止される。
しかし接着剤に関しては規制の具体的な記載がない。
さて裁判所だが裁判官はオーナー側の訴えを退ける判決を下した。
その理由はやはり興味深いので紹介したい。
・1)石綿が実際に飛散するかどうかでは無く、石綿があることで健康リスクが上昇する。
・2)石綿含有の接着剤の層に手を加えなくても接触するだけでも飛散のリスクが生じる可能がある。
・3)石綿含有接着剤の層の封じ込めや囲い込みは飛散の原因になるものが撤去される分けでない。
・4)封じ込めや囲い込みをする事で過去の出来事として忘れ去られてしまう事もある。
・5)そして次にリフォームなりリノベーション、もしくは建築物の解体をする際に「対策済み=石綿撤去」と思い違いをする事も考えられ、知らずにアスベストを飛散させてしまう可能性もある。
・6)石綿含有がある限り健康被害のリスクを回避した事にならず、根本的な石綿負荷の解決にならずリスクは存在し続ける。
ことのつまり、裁判所から「ちゃんと石綿含有の接着剤の層を除去しなさい」と判決を下したのである。
今後この裁判の判決が「非飛散性アスベスト対策」を行う際に模範とされる事が十分に考えられる。
つまり100%除去かリフォーム&リノベーション無しかと言う2者択一を迫られる事になるかもしれない。
リフォーム&リノベーションを行わないと建築物の価値が下がるだけでなく、住居として、歳月ともに「不足」が生じる可能性が十分ある。家賃収入を得ている住居ビルのオーナーにとってはなかなか厳しい判決結果になった。
ちなみに今回はオーナー側は「敗北」した事によって、工事の延期による損害賠償をリフォーム会社に支払うだけでなく、裁判に掛かった費用の支払いも余儀なくされた事になる。もちろん、石綿除去費もオーナーの支払い義務になる。