アスベスト事情・オランダ
仕事絡みでアスベストの話
子供用キラキラ・メイクにアスベスト/石綿の混入が発覚したオランダ。
この商品と同じものを発売しているお店はドイツにもある。しかしオランダのようにメディアで大きく取り上げれらる事はなかった。欧州緊急警報システムRAPEXでクレアーズ社のアスベストが検出されたメイク・アップ商品の詳細がドイツにも通達されており、またクレアーズ社でもこれらの商品の返品に対応してるのだが、このニュースを知らないドイツ市民は多いことだろう。
オランダとドイツのアスベスト対策・意識の違いが窺われる。そんな事もありオランダのアスベスト事情の一部を紹介したい。
オランダでの石綿禁止は確か1993年だと記憶している。
オランダは農業国として有名であるが造船業でも長い歴史があり、欧州で最大の造船国と言っても良いだろう。しかし造船業は建設業と共にアスベスト関連疾患の多い業種として指摘されているおり、この事が同国の石綿事情と深く関係しているといわれている。また現在も港町に往けば石綿含有のスレート屋根の倉庫を見かける事も多い。
実際、調査によるとオランダでは現在も約70%の建築物で石綿含有の健在が使用されたままであるという。ドイツや日本同様、アスベストとセメントを混ぜて作られてスレート屋根の使用もまだまだ多い。
またオランダは石綿疾患での死亡率も高いと聞く。中皮腫だけをオランダとドイツと比べてみるが、単純に数字を見るとオランダでの中皮腫の死亡数はおおよそ年間500件ほどであり、ドイツは年間約1400件だと聞く。しかしオランダとドイツの総人口を比べると、ドイツの方が5倍ほど多い。単純に考えるとオランダでの中皮腫の死亡率はドイツの3倍ほど多い事になる。
そのような数字データーも関係しているのか、オランダで2024年を目標に、石綿スレートの屋根の全廃を決めたのは記憶に新しい。これは公共の建築物だけではなく個人住宅も対象である。最終的には2040年までに石綿関連疾患による死亡率を0%まで下げるという大きな目標が掲げられている。
さてオランダ全体で実際どくらいの石綿スレートの屋根があるか言うと、総面積で13000ヘクタールだと言われている。東京ドーム約2780個分に匹敵する大きさである。この多くのスレートの屋根を除去する作業は莫大な時間と費用がかかる事だろう。
さてこの費用は誰が負担するのか?
これはもちろん建築物の所有者である。
では建築物の所有者にどうやってスレート屋根を撤去させるか?
これは飴とムチの政策をしていくしかない。
はじめに飴の部分を紹介する。これは国からの助成金による支援がある事である。しかし些か条件や上限がある。下記、助成金申請の決まりと金額の概要を箇条書きにする。
・・1)スレートの屋根1m2につき4.5ユーロ(約600円)、
・・2)支援金の上限額は25,000ユーロ(約330万円)。
・・3)最小限でも35m2のスレート屋根の除去
・・4)スレート屋根対策と太陽発電装置の設置の併用可
国の助成金に関して言えば、条件があるとは言え、大変ありがたい制度である。
助成金の申告期間は2016年1月1日より19年12月31日までで、国としては7千500万ユーロ(約98億円)の準備があるという。(ちなみにここドイツでは通常石綿調査・石綿除去の助成金はない。あえて可能なのは確定申告で申告するくらいである)。
しかし一部のアスベストの専門家はオランダ全てのスレート屋根の除去には1.5兆ユーロ(200兆円・・・私の想像不可能な数字。国家単位でのお金の規模)、また屋根撤去後の建築物修繕作業等に更に2兆ユーロから6兆ユーロかかるとみており、国の助成金はかかる費用の氷山の一角でしかないという。
加えて現在どのような地域に石綿が残存しているかと言うと、比較的収入額の少ない農村や低収入労働者の住む地域であるという。このような地域では建築物の所有者自身の所得が低い場合があり、石綿除去費用の工面をどうするのかが課題であろう。
市民にとって石綿による健康被害のリスクよりも、実際に直面する費用の問題の方が多きのではないかと懸念する専門家もいる。
また政策のムチの部分に触れるが、2024年までにスレート屋根の撤去を行なわなかった建築物所有者には罰金やもしくは刑罰を課す事があると言う。
石綿含有のスレート屋根の撤去を先送りし逃げる事は不可能なようである。またこれを行なった場合、犯罪行為になってしまう可能がある。
しかし何故、ここまで石綿スレート屋根の撤去に強行な政策をとる必要が出てきたのだろうか?
これには3つの事象が関係しているらしい。(もちろん石綿疾病患者数等も関係しているが)。
1つ目はスレート屋根自身の寿命である。オランダでのアスベスト禁止から今年で25年になる。石綿含有のスレート屋根の寿命は平均30年だといわれている。このことを踏まえと寿命がきているスレート屋根も多くある推測できる。しかし多くの場合、所有者はスレート屋根に手を着けずにいる事も多いという。
2つ目は気象環境の変化である。近年増えている豪雨や暴風はスレート屋根の侵食を加速させている。これにより劣化が進められる。その結果アスベスト繊維の飛散のリスクが高まる事になる。
3つ目は火災事故である。オランダやここドイツでも火災事故、取り分け倉庫や工場火災のたびにアスベスト建材の有無が確認され、また石綿建材があった場合にはアスベストの飛散があったかどうかが調査される。
今年3月にオーストラリアで森林火災がおこり鎮火するものの住民がアスベスト飛散のリスクの為に直ぐには帰還できなかったという事は記憶に新しい。
オランダでも近年大きな火災事故が起こっている。取り分け2014年のアウトレットモールでの大型ショップの火災事故はちょうどクリスマスの買い物客で賑わう時期に起こった。
鎮火後も学校はしばらく休校になり、また市民も防塵マスクを使用しての生活を余儀なくされた。汚染源から4、5キロm2内でアスベストの除染作業が行なわれた。
このように火事が原因でアスベストが、何キロも先、また人の多い市内の中心まで飛散してしまうケースも珍しくない。
数年前、オランダでは石綿疾病患者数が2017年頃にピークに達すると予測されたが、専門家曰く、中皮腫、また石綿関連の疾病は今後更に増加する傾向にある。
ここドイツも同様であるが石綿リスクの認識には多くの個人差がある。取り分け若い世代はアスベストの発がん性リスクが認識され、禁止になった経緯を知らない。日本でも若い世代に石綿のリスクを伝え、認識してもうら事が一つの課題になっていると聞くが、オランダでも同じような問題を抱えている。
アスベストが無くなれば、石綿リスクを伝える必要もないかもしれないが、実際アスベストの多くが建築材とし使用されたままの状態である事実を見る限り、石綿リスクを伝える事はそれを使用した世代の最低限の責任ではないだろうか?もちろん負の遺産を次の世代に残さない事が一番良いのだが・・・。
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