ドイツ・環境・自然

環境の国って言われるドイツだけど、色々とジレンマがあるみたい。環境・自然を中心に日常の事書いています。

カーボンナノチューブの毒性において

連気候変動枠組条約第23回締約国会議での日本パビリオンや他国の講演内容が各関連団体のHPで発表されたのが10月。大変興味深い講演がある為聴講に行こう思い開催地のボン市に問い合わせたところ、一般市民の聴講申し込みは9月中に締め切れてたとの事。確かに今日テロ対策なのでセキュリティーを大切にするのは分かるが、締め切りが早すぎるのではないかと、一人文句を言っている。しかしCOP23には多くの専門家の皆さんが参加しているので、その方達の報告を楽しみにしたい。

 

よって違う話を今日は一本。カーボンナノチューブについて。

 

カーボンナノチューブ(CNT)を簡単に説明すると、炭素原子が網目のように結びついて筒状/ホース状になったもので直径はナノメートル(nm)と言った非常に細いものである。

ナノメートルがどの位かと言うと髪の毛のほぼ5万分の1の太さである。またナノの世界

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での比較対象を記するとDNAの螺旋の直径が2nm、微小管の直径25nmである。またこれらのDNAや微小管を含んでいる細胞は大体10から30μm(10000nmー30000nm)の大きさであるので、いかにカーボンナノチューブが細いものか想像できるであろう。

 

この物質の発ガン性について近年様々な議論が行なわれている。

 

悪名高いアスベストはその発ガン性のため、現在多くの国で使用が禁止されている(新規使用が禁止であって、現在建築等に使用されたままの物も多い)。しかしアスベスその耐熱性、絶縁性、保温性に優れた性質により以前は多くの国で使用されていた。

 

     このアスベストに取って変わる様に使用され始めたのがカーボンナノチューブである。耐久性、導電性、耐熱性、化学安定性は抜群、また強靭なのにしなやかでもある。90年代初期に発見され驚異の新素材とし注目された。現在はエレクトロニクス分野や光学機器分野、また身近なところでは自転車(スポーツタイプ)のフレームやテニスのラケットなどスポーツ用品など多様な分野で使用されている。

 

しかし似ているは物質の良き性質だけではない。長く細い形態はアスベスト繊維にも似ているのある。『ネイチャー ナノテクノロジー』では2008年に既にカーボンナノチューブでアスベストに似た健康被害を誘発する危険性が高いと論じており、発がん性が懸念されている。

昨日のCurrent Biology紙にも再びカーボンナノチューブの発ガン性についての論文が掲載されていた。

それによると細く長いカーボンナノチューブは中皮腫(アスベスト曝露特有の肺の膜のできる癌)を起す可能性が十分にあるという。

 

実験では短・長のカーボンナノチューブとアンモサイト(茶石綿)を用意しマウスへ投与。20ヶ月に渡り細胞および組織の変化、また遺伝子発現につき調査をおこなった。

 

その結果比較的太くまた短いカーボンナノチューブについては免疫システムにより排除されたが長く細い物に関してはアスベスト繊維同様に排除されず組織に停留し、結果、組織に慢性的な炎症反応がおこる。

またマウスへの投与後6ヶ月で腹膜や胸膜に病変が見られ、また20ヶ月後では形態異常な細胞の塊が確認できたと言う。結果としては10から25%の割合でカーボンナノチューブにより組織の病変そして中皮腫が生じたと論じられている。

 

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また遺伝子発現の調査ではカーボンナノチューブによる中皮腫発生に関し、アスベストに由来する中皮腫と同様の分子機構が働くと言う。

よってマウスの実験では細く長いカーボンナノチューブにはアスベストと同様に発ガン性があると言わざるを得ない

上記の結果と同じ事が人で起こる可能性は高い。

しかしまったくその通りだとも言えない。今回はマウスでのin vivoである。調査をする為にマウスはカーボンナノチューブとアンモサイト(茶石綿)を長期間、大量に吸う込む環境におかれている。また遺伝子発現調査の為には胸膜部に直接カーボンナノチューブとアンモサイを投与している。現状では日常生活で人がどの位のカーボンナノチューブに曝露しているのか現在不明である。

またこの論文によるとすべてのカーボンナノチューブではなく、細く長い物で発ガン性の危険がある事を示唆している。よってカーボンナノチューブの生産者やカーボンナノチューブを加工使用する産業界はカーボンナノチューブをどの様な形態で使用するか注意をする必要があるかもしれない。第二のアスベストにならない様に気をつけてほしい。

ソース: current-biology Volume 27, Issue 21, p3302–3314.e6, 6 November 2017