ドイツ・環境・自然

環境の国って言われるドイツだけど、色々とジレンマがあるみたい。環境・自然を中心に日常の事書いています。

肺癌予防に希望

癌予防に希望!

肺癌は癌の中でも死亡率が一番高いと聞く。肺癌の一種に中皮腫(正しくは肺ではなく、肺を覆う胸膜にできる癌)という病気がある。悪性の癌で、ステージIの場合での5年生存率が21%だと言われている。多くの癌でのステージIでの5年生存率は80から90%と言われている今日において、中皮腫は未だに生存率の低い癌である。それだけこの癌が悪性である事がわかる。

この癌の主な原因は肺に刺さったアスベスト繊維で、アスベスト曝露から3040たって発病する事もしられている。肺にささった繊維はマクロファージ(食細胞)によって分解されることなく滞留する。更に悪い事に、刺激をうけたマクロファージは炎症を起こすサインになるシグナルタンパク質であるサイトカインを放出する。この信号が更に刺激となりマクロファージが患部に集まると共に、炎症を起こすサイトサイトカインを放出する。これにより持続性の炎症が起こり、また組織周辺の細胞がダメージを受け、これが細胞の変異、後には癌化の原因となると考えられている。

さてこの炎症をおさえる抗炎症薬が現在、注目されている。

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この抗炎症薬の元になるのはカナキヌマブである。カナキヌマブとはインターロイキン-1βを標的にする抗体である。インターロイキン-1βIL-1β)とはサイトカインの一種で炎症反応と関係が深い。このIL-1βが受容体と結合し炎症がおこる。カナキヌマブはIL-1βに特異的に結合し、IL-β受容体と結合することを阻害し炎症症状を抑制するという。商品名「イラリス」(ノバルティス ファーマ社)として知られている。

このカナキヌマブが肺癌の発生率および死亡率を下げる効果あるというデーターをブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)のPaul M. Ridker氏をはじめとする研究チーム発表した。8月25日付けのLancet誌オンライン版に掲載した

今回の調査はまずは薬の心筋梗塞および心血管系の疾病への効果を調べるためのもであった。

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下記簡単に臨床試験の内容を紹介する。

心筋梗塞歴があり炎症性アテローム性動脈硬化症を患っている患者で尚且つ炎症マーカーであるCRPタンパク質を2mg/L以上発現しており、加えて癌病歴のない1万人以上の被験者を対象と治験が行なわれた。

被験者を4つのグループに分け、カナキヌマブまたは偽薬(プラセボ)を三ヶ月毎に皮下投与し、カナキヌマブの効果及び投与量との関係を調べた(カナキヌマブ50mg, 150mg、 300mgなお偽薬とは効き目のある成分が何も入っていない薬の事で被験者に「効果がある薬を投与されている」と思い込ませる為に使用する。

その後最長で5年6ヶ月、被験者の追跡調査が行なわれた。

その結果カナキヌマブの投与で心筋梗塞、脳梗塞などの大血管障害のリスクが15%減少する事がわかった。ただしカナキヌマブ50mgでは些か効果が弱いという。

さて、ここで心筋梗塞と肺癌の関係を疑問に思う読者もいるかと思う。筆者の知見によれば下記のような関係があるらしい。

長年、動脈硬化の発生にマクロファージ(炎症と関係がある食細胞)深く関係しているといわれている。動脈硬化の原因の一つはコレステロールである。血中にあるコレステロールは通常体内の必要な箇所で細胞にとり込まれる。しかし高血圧や糖尿病などで血管に負担がかり管の内皮細胞に傷つくと、そこから血中のコレステロールが組織ない入り込むそこで酵素の影響をうけ酸化されて、体内で必要でない物質になってしまう。この不要物を消化すべくマクロファージが働くのである。ただし大量の酸化コレステロールを取り込む事でマクロファージはやがて死んでしまい、跡にはコレステロールの塊が残るという。この塊が蓄積し血管が狭くなり血流の減少したり血栓ができ心筋梗塞や脳梗塞と原因となるといわれている。またこのマクロファージが様々なサイトカイン(細胞にとって信号となるタンパク質)を放出して血管局所で炎症反応が起こると共にこの信号により更なる炎症性サイトカインの産生が刺激しされ、慢性の炎症をともなり動脈硬化が少しずつ進展していく。炎症性アテローム性動脈硬化というのもこのように炎症を伴う動脈硬化の事であるらしい。

ここで何となく心筋梗塞や脳梗塞と言った心血管系の疾病と肺癌の関係が見えてくるだろう。双方に関係してくるのが炎症である。故に抗炎症薬の有効性が注目されるのである

さて臨床試験に話を戻す。

今回カナキヌマブの投与で癌の死亡率、取り分け肺癌での死亡率が、偽薬グループに比べ低い値となった。とりわけ300mgのカナキヌマブ投与では肺癌の死亡率が偽薬グループに比べ77%減少したという。

また同時に肺癌の発生率も投薬量と関連し減少したと報告された。(カナキヌマブ50 mg、150 mg、300 mgで肺癌発生率を各26%、各39%、67%減少)

ちなみに他の部分の癌の発生を比べると投与グループと偽薬グループでは統計的有意な差がなかったと聞く。

今回のこのデーターは今後肺癌の予防や治療に繋がる大変興味深いものである。

ただしカナキヌマブについて難点を言えば、今回の調査では投与グループでは感染症及び敗血症が偽薬グループに比べ多かった事と(多分副作用)、注射一本約150万円ほどといわれる値段である。

 

ソース

Novartis Pharmaceuticals Lancet. 2017 Aug 25. 全国がん(成人病)センター協議会, 他