ドイツ・環境・自然

環境の国って言われるドイツだけど、色々とジレンマがあるみたい。環境・自然を中心に日常の事書いています。

あぁ、やっぱり。一度刺さると刺さり続けれアスベストの話。

 

もう一つまとめてアスベストの話

 

ドイツ・ボッホム大学の中皮腫臨床医学研究所がEuropean Respiratory Journalに今年始めに論本を発表している。

 

高い発ガン性で知られているアスベスト(石綿)。

 

石綿は通常2つのグループに分けられる。1つ目は角閃石系の石綿。この鉱物から生成された石綿は種類により青色や茶色をしているものがあり青石綿=クロシドライト、茶石綿=アモサイトなどと言うものがある。

 

日本同様ドイツでも多く使用されていた石綿はクリソタイルという種類である。この石綿は綿の様に柔らかく白い。よって白石綿と呼ばれる事も多い。なおこの繊維の元になっているのは蛇紋石という鉱物であり、なんでも蛇の皮の様な光沢がある鉱石だと聞く。

 

ちなみにこの白石綿の臨床的・病医学的な特長の一つは石綿小体を作りづらいという話を聞いた事がある。なので病巣の一部を摘出し、検査をしてもなかなか繊維が発見されな事も多々ある。

 

そのような事が関係しているのか、以前よりドイツでは石綿繊維、取り分け白石綿の停留に関し議論されてきた。肺に刺さった石綿の一部は免疫細胞に食されてしまうのではないか?または体内のほかの場所に移動してしまうのか?。しかしこの白石綿が患部も確認できなくとも、肺癌など発病している患者も少なく無いため、この現象をドイツでは『ひき逃げ』現象と例えている。つまり悪さし、自分だけその場から逃げてしまうのである。

 

ところが今月ボッホム大学、中皮腫臨床医学研究所が石綿繊維の停留に関する長期調査の結果を発表した。

 

石綿繊維は一度刺さると免疫細胞に消化される事なく、半永久的に刺さったままだと言うが、今回それを証明すべきデーターがまとまった。

 

中皮腫臨床医学研究所の所有するデーターバンク・約2万4千の患者より対象になる12人が選択され、長期的調査が行なわれた。この調査では12人の患者より生前と死後計2回のサンプルリングをおこなわれ、肺組織片内の石綿小体の数を電顕で確認調査をおこなった。各患者は長期の石綿曝歴があり、一部の患者を抜かし、初回の手術で多くの石綿小体が発見されている。また初回の手術より最短で4年、最長で21年後に検死解剖にて肺組織片を新たに採取し石綿小体の数の変化を調査した。なお患者らは最後の石綿曝露より最短でも11年以上、最長で37年の月日が経過している。しかし、それのも係わらず、角閃石系の石綿及び白石綿、両種類が肺組織より検出され、それにより肺組織の奥まで達した石綿繊維は留まったままである事が証明され、また一度刺さってしまうと減少する事もしないという。

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(調査対象基準)

  • 石綿小体がある患者。

  •    手術や気管支肺胞洗浄等で石綿小体が検出されている患者。

  • 生検で500石綿小体 /1g生肺組織が確認されている患者。(一部除く)

  • 死後の解剖で石綿小体が検出されている患者。

  • 初回の手術調査より次の死後解剖調査まで最短で4年以上の月日がある事。

 

今回の調査で生体内持続性がはっきりした事で、今後『治療に役立てる事ができるだろう』という。

 

やはり通常の肺癌と肺に石綿繊維が刺さりつづけているで起こる肺癌とでは薬剤の効果や治療方法が変わってくるだろう。通常の癌であれば癌細胞を治療対象にできるのだが、発ガンを導くものが留まったままだと、薬剤治療はなかなか難しいだろう。しかもこの発ガン性物質はマクロファージの分泌する酸にも強く溶けないのである。

 

最初は「今更何を・・・・」と思ってしまったが、最後「あぁ、やっぱり」と思ってしまう論文だった。

 

動物実験による石綿の毒性によるデーターは多々あるが、流石に人体実験をするわけにはいかない。このように長期データーが収集されたことで一般市民の危険意識が高まれば良いのだが。

 

なお「繊維が発見されない」ー>「労災認定取り消し」という方向に話が飛躍しないよう、注意してほしい。

なお論文のタイトルはThe asbestos fibre burden in human lungs: new insights into the chrysotile debate