ドイツ・環境・自然

環境の国って言われるドイツだけど、色々とジレンマがあるみたい。環境・自然を中心に日常の事書いています。

エコと自転車・ドイツ 2017

ティーサイクル

 

ドイツの発明家カール・ドライスが発明した「ドライジーネ」(下写真)という自転車の元祖が誕生してから今年で200年。Climate Alliance(気候同盟)がシティーサイクル活動をスタートしてから今年で10年。何かと今年は自転車が注目されて年である(加えてツール・ドフランスのスタートも今年はドイツ)。

ディーゼル車やガソリン車からの窒素化合物や二酸化炭素が大気汚染の一つ原因であることに比べると自転車ほどエコな乗り物はない。

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ドイツの自転車所有数は7300万台(日本7100万台)、人口当たり自転車保有台数0,83(日本0,61)、自転車利用者の自転車走行距離は平均1日あたりに3.4km(日本2.9km)、自転車の値段の平均8万円(日本2万円)というデーターがある。(ソース:ZIV, Ramp, VSF, JBPI)

自転車の値段以外はドイツと日本の自転車データー、なかなか近いものがある。ちなみにドイツの自転車一台平均8万円には電気アシスト自転車は含まれない。電気アシスト自転車を含めると自転車1台の平均価格は17万円ほどになるというから、これにはびっくりである。

 

 

ドイツ

日本

自転車所有数

73000000

71000000

人口当たり自転車保有台数

0.83

0.61

走行距離平均1日当り

3.4km

2.9km

自転車価格:1台当り

80000円

20000円

 

 

統計データーはさておき、今日のテーマ。「シティーサイクル」

 

これはドイツ・フランクフルトに本部を置く環境団体「気候同盟」がは2007年にスタートしたサイクリングイベントである。

 

簡単に気候同盟から説明この機関は温暖化対策を推進するヨーロッパの26カ国、1700以上の地方自治体が加盟するネットワーク組織である。メインになる活動と目的は二酸化炭素(CO2)の削減である。その活動の一環としてドイツ全国規模でサイクリング週間をもうけ、cycling for a better climateをスローガンに政治家や市民へ積極的な自転車利用を呼びかけている。これが「シティーサイクル」である。

 

ここに更なる遊び心がある。自転車週間も設けるだけではなく、都市対抗、及び市内でグープ対抗や個人対抗でサイクリング週間内(3週間)で走行距離を競う会う事ができる。イベント参加者(政治家・市民)は自分の街の「シティーサイクル」に登録し、ホームページにて毎日の走行距離(下画像)を書き込む事ができる。なお登録に関してはグループ参加でも個人参加でもOK。また対抗システムがある為、他の参加者の走行距離も見る事ができる。加えて走行距離をCO2の削減量に置き換えての数字もアップされる。環境の為に走るのも良し、自分の健康の為でも良し、また参加者と競い合っても良し、と多目的に楽しめる。今年の参加都市・自治体数620、参加者数22万人(東京の渋谷区の住人と同じくらい)、参加議会議員・政治家数3800人とのこと。

(ソース:stadtradeln)

ちなみに筆者の参加するグループは一人当たりの平均走行距離653kmで市内で3位を獲得。なおグループ対抗ではやはり地元の郵便局グループが強し。仕事がら郵便屋さんの自転車利用率は最大である・・・。

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しかし昨日のメディアは「ドイツのCO2の排出量を2020年までに40%削減する」という目標の達成が危ういことを伝えている。現状維持(環境税の引き上げ等なし)で算出した場合、最大でも32.5%の削減だと言う。目標設定時には専門家により2020年のCO2の排気量は7億5000万トンだと推定されたが、最新の推定排気量は8億4400万トンだと言う。

(ソース:Zeit Online)

 

自動車の排気ガスからのCO2も一つの原因だが、ドイツではまだまだ石炭褐炭火力発電への依存も高い。2017年の発電量のデーターでは石炭・褐炭火力発電は約40%である。ただし再生可能エネルギーの発電量も石炭・褐炭に匹敵するほど現在は増加し、全体の約38%を占める。。ちなみに稼動中の原発も発電を行なっているわけで、その発電量は全体の約13%である。

(ソース:Fraunhofer ISE)

 

ドイツの発電の割合

石炭・褐炭

40 %

再生可能エネルギー

37.9 %

原子力

12.7 %

天然ガス

8.3 %

石油・その他

1.1 %

 

今年の気候変動会議及び国連気候変動枠組条約の締約国会(COP23)のホストを務めるドイツ。(しかもCOPは条約事務局がある都市で行なわれる)

 

今から「目標達成は無理・専門家の見当違い」と逃げの体制になるのか又は「すべての手段を駆使し目標達成を果たし世界に環境先進国ドイツをアピールするのか、大変興味がある。

 

 



肺癌予防に希望

癌予防に希望!

肺癌は癌の中でも死亡率が一番高いと聞く。肺癌の一種に中皮腫(正しくは肺ではなく、肺を覆う胸膜にできる癌)という病気がある。悪性の癌で、ステージIの場合での5年生存率が21%だと言われている。多くの癌でのステージIでの5年生存率は80から90%と言われている今日において、中皮腫は未だに生存率の低い癌である。それだけこの癌が悪性である事がわかる。

この癌の主な原因は肺に刺さったアスベスト繊維で、アスベスト曝露から3040たって発病する事もしられている。肺にささった繊維はマクロファージ(食細胞)によって分解されることなく滞留する。更に悪い事に、刺激をうけたマクロファージは炎症を起こすサインになるシグナルタンパク質であるサイトカインを放出する。この信号が更に刺激となりマクロファージが患部に集まると共に、炎症を起こすサイトサイトカインを放出する。これにより持続性の炎症が起こり、また組織周辺の細胞がダメージを受け、これが細胞の変異、後には癌化の原因となると考えられている。

さてこの炎症をおさえる抗炎症薬が現在、注目されている。

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この抗炎症薬の元になるのはカナキヌマブである。カナキヌマブとはインターロイキン-1βを標的にする抗体である。インターロイキン-1βIL-1β)とはサイトカインの一種で炎症反応と関係が深い。このIL-1βが受容体と結合し炎症がおこる。カナキヌマブはIL-1βに特異的に結合し、IL-β受容体と結合することを阻害し炎症症状を抑制するという。商品名「イラリス」(ノバルティス ファーマ社)として知られている。

このカナキヌマブが肺癌の発生率および死亡率を下げる効果あるというデーターをブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)のPaul M. Ridker氏をはじめとする研究チーム発表した。8月25日付けのLancet誌オンライン版に掲載した

今回の調査はまずは薬の心筋梗塞および心血管系の疾病への効果を調べるためのもであった。

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下記簡単に臨床試験の内容を紹介する。

心筋梗塞歴があり炎症性アテローム性動脈硬化症を患っている患者で尚且つ炎症マーカーであるCRPタンパク質を2mg/L以上発現しており、加えて癌病歴のない1万人以上の被験者を対象と治験が行なわれた。

被験者を4つのグループに分け、カナキヌマブまたは偽薬(プラセボ)を三ヶ月毎に皮下投与し、カナキヌマブの効果及び投与量との関係を調べた(カナキヌマブ50mg, 150mg、 300mgなお偽薬とは効き目のある成分が何も入っていない薬の事で被験者に「効果がある薬を投与されている」と思い込ませる為に使用する。

その後最長で5年6ヶ月、被験者の追跡調査が行なわれた。

その結果カナキヌマブの投与で心筋梗塞、脳梗塞などの大血管障害のリスクが15%減少する事がわかった。ただしカナキヌマブ50mgでは些か効果が弱いという。

さて、ここで心筋梗塞と肺癌の関係を疑問に思う読者もいるかと思う。筆者の知見によれば下記のような関係があるらしい。

長年、動脈硬化の発生にマクロファージ(炎症と関係がある食細胞)深く関係しているといわれている。動脈硬化の原因の一つはコレステロールである。血中にあるコレステロールは通常体内の必要な箇所で細胞にとり込まれる。しかし高血圧や糖尿病などで血管に負担がかり管の内皮細胞に傷つくと、そこから血中のコレステロールが組織ない入り込むそこで酵素の影響をうけ酸化されて、体内で必要でない物質になってしまう。この不要物を消化すべくマクロファージが働くのである。ただし大量の酸化コレステロールを取り込む事でマクロファージはやがて死んでしまい、跡にはコレステロールの塊が残るという。この塊が蓄積し血管が狭くなり血流の減少したり血栓ができ心筋梗塞や脳梗塞と原因となるといわれている。またこのマクロファージが様々なサイトカイン(細胞にとって信号となるタンパク質)を放出して血管局所で炎症反応が起こると共にこの信号により更なる炎症性サイトカインの産生が刺激しされ、慢性の炎症をともなり動脈硬化が少しずつ進展していく。炎症性アテローム性動脈硬化というのもこのように炎症を伴う動脈硬化の事であるらしい。

ここで何となく心筋梗塞や脳梗塞と言った心血管系の疾病と肺癌の関係が見えてくるだろう。双方に関係してくるのが炎症である。故に抗炎症薬の有効性が注目されるのである

さて臨床試験に話を戻す。

今回カナキヌマブの投与で癌の死亡率、取り分け肺癌での死亡率が、偽薬グループに比べ低い値となった。とりわけ300mgのカナキヌマブ投与では肺癌の死亡率が偽薬グループに比べ77%減少したという。

また同時に肺癌の発生率も投薬量と関連し減少したと報告された。(カナキヌマブ50 mg、150 mg、300 mgで肺癌発生率を各26%、各39%、67%減少)

ちなみに他の部分の癌の発生を比べると投与グループと偽薬グループでは統計的有意な差がなかったと聞く。

今回のこのデーターは今後肺癌の予防や治療に繋がる大変興味深いものである。

ただしカナキヌマブについて難点を言えば、今回の調査では投与グループでは感染症及び敗血症が偽薬グループに比べ多かった事と(多分副作用)、注射一本約150万円ほどといわれる値段である。

 

ソース

Novartis Pharmaceuticals Lancet. 2017 Aug 25. 全国がん(成人病)センター協議会, 他

第二回ディーゼル対談・ベルリン・9月5日

二回ディーゼル対談。

 

ドイツの中・大都市で継続的に窒素化合物がEUの基準値を上回っている事でディーゼル車の禁止の危機にあるドイツの中・大都市。ディーゼル車の禁止を回避すべく、昨日9月4日に第二回ディーゼル対談がベルリンにて行なわた。今回はメルケル首相も出席し、州首相および30の中・大都市の市長(上級市長)が対談に参加した。なおこの中・大都市では窒素化合物の値が継続的に基準値を上回って計測されている都市である。また今回のディーゼル対談は自動車産業界不在でおこなわれた。

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この対談で国は州・地方自治区に更に5億ユーロ(約650億円)の資金援助を行いという。これにより総額10億ユーロ(約1300億円)(内訳:国の負担額7億5千万ユーロ(元を正せば税金ですね)、自動車産業界の負担額2億5千万ユーロ)が「クリーンな空気」の為につぎ込まれる事になった。

 

また大気汚染の改善案だが中・大都市における公共のバスや貨物自動車(ゴミ収集車など)の改善、電気バス(車両価格、約9000万円)、電気トラックの導入。また公共交通機関の充実を図り利用者の増加に繋げる試みもある。また交通手段としての自転車使用率の向上を図るため、自転車用車道の設置・改装などが検討されている。

またメルケル首相は具体的な資金運用の為に早急に専門機関を設置する意向である。

 

しかしこの対応策について地方自治体系企業連盟(Verband Kommunaler Unternehmen =VKU)は詳細と具体案が不十分であるとコメント。またディーゼル対談参加者であるケルン市・市長は国の資金援助は長期的には大変有意義なものではあるが、我々ケルン市民が今必要なのは、速急な解決柵であると言う。また緑の党・代表は国政府が自転車車道や中・大都市の公共輸送手段の改善に資本投資する事には賛成であるとするが、大元のディーゼル車の技術改革がなされない事を重く見ており、技術改革の必要性を政府に訴えている。また環境団体グリーンピースは連邦政府が税金から多額の資金を捻出する事は、不正を行なった自動車産業界にその社会的責任を追求すのではなく、逆に自動車産業界に助け船を出す事に等しいと、強く批判。ドイツ環境自然保護連盟(Bund für Umwelt und Naturschutz Deutschland = Bund)は排気ガス問題における政府の対応の不手際の責任を地方自治区に責任転換していると非難している。

 

このように今回の話し合いの結果を不十分・不満足だと捉えているひとも多い。

 

なお自動車産業界は先の第一回ディーゼル対談でエンジン制御ソフトウェアの更新に取り組むとともにディーゼル車の買い換えを促すための費用補助を導入すると言うことで政府と合意している。しかし部品など多くの費用が掛かるハードウエアの交換は行わない。環境省がエンジン制御ソフトウェアのアップ・デートのみで空気汚染が改善されるだろうと言う意見を些か疑問視しているのも係わらず、メルケル首相もハードウェアの交換には反対だと言う。しかしメルケル首相は先の排気ガス詐欺事件について、ドイツの自動車産業の信用損失をであると強調し、自動車産業界は信用の回復ために最善を尽くすべきだと主張。またドイツの自動車産業は国内雇用80万人が排気ガス詐欺事件の影響でリストラにあわないよう、慎重に対応すべきであると言う。

 

 

次回の対談はドイツ統一選挙後の10月末の予定である。選挙結果において、対応策の変更も考えられる。また11月上旬には国際気候会議もドイツで行なわれ温暖化の原因となるCO2についても議論されるだろう。

ソース: Kölner Stadt Anzeiger, Spiegel Online etc.

第23回気候会議に開催地「ボン」と市民の環境活動について

かと環境問題がメディアで取り上げられるドイツ。

 

今年11月に23回気候変動枠組条約締約国会議(COP23)が開幕するドイツの旧首都ボンにてその決起集会の一つ、気候キャンプが行なわれた(8月18日より24日まで)。若者達が1週間テントをはり、プレゼンテーションや活発なディスカッション、市内デモ、また臨時クリティカル・マスを行ない環境保全の大切さを訴えた。

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さてこのクリティカル・マス(Critical Mass)について今日は少し書いてみたい。

 

簡単に言えば自転車デモである。月一回、自転車集ま車道を集団で走行する。本来は自転車に優しいまちづくりをアピールする社会運動であるが、サイクリングイベントして気軽に参加する事も可能だ。(なので自分も一緒に走ってきた)Wikipediaによるとサンフランシスコで1992年に開始されたものが起源でであるという。

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ここ数年、ドイツでも交通手段、主に通勤・通学手段としての自転車利用率が年々伸びおり、自転車用高速道路の整備なども進められている。近年は電気アシスト尽きの自転車の普及で10キロほどの道のりでも汗をかかず、また渋滞に巻き込まれる事なるスイスイと目的地に辿りつける。

 

しかしヨーロッパで一番進んでいる自転車の街・コペンハーゲンにはまだまだ敵わない。取り分け旧西ドイツではやはりまだまだ、車中心の社会である。

その社会で自転車への配慮を求め、また自転車の持つメリットを活かして環境保護を呼びかけるとともに、更には車と同等の権利(例えば車線数や幅)を求めての自転車デモある。現在ドイツでおおよそ50都市で定期的に行なわれている。

 

大人も子供もハンドサイクル(手で漕ぐ自転車)もサイクルトレーラー(ちびっ子やペットなどを乗せて自転車で引っ張るトレーラー)も色々あり。またイベント的要素を忘れる事なくサイクルトレーラーにスピーカーと発電機を載せての大音量の音楽を流すDJチャリもある。デモというより、自転車のパレードである。各自転車もベルを「チリン・チリン」しながら走行する

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なお自転車デモか行なわれている間は車やバス、トラムなどはなかなか動けない。デモとして許可をとってある場合は更に警察などによって車の規制なども行なわれるであろう。

 

実はドイツの交通法よると15台以上の自転車が走行する場合、一つの集団として走る事を薦めており、更に自転車車道であっても、通常の車用の車道を道幅で走行する事が認められている。早い話自転車集団=大きな車一台という解釈になるようである。よって自転車デモ集団の後ろにいる車は無理な追い越しをしてはならない、また自転車デモ集団も道路交通法を守り、「大きな車」とし車線から食み出しは禁止である。

 

車のドライバーの反応にはやはり個人差があるが、比較的自転車デモに寛容である。クラクションをならし応援してくれるドライバーも多い。

ドイツでは自転車利用率が上がれば、それだけ車の渋滞が緩和されるという見方が強い。しかし自転車の存在を気にかけないドライバーも多く、また車道脇に設けられているサイクリング・ロードに駐車する車も少なくわない。(ドイツは通常路上駐車が認めらている)。自転車ライダー曰く「公道には危険」が多い。このような危険が通勤・通学手段としての自転車使用にブレーキをかけているという。また車のドライバー曰く、「交通ルールをまもれない自転車」もいるとのこと。

 

ちなみに6月、7月のボンでの参加者は各246名、275名だと聞く。なお今月8月の開催本日25日(金)の予定だある。

 

第23回気候会議でのホスト役を努めるボン。ボン市民の環境意識も世界に恥じないもであるように願いたい。

 

ソース: Critical Mass Bonn, Wikipedia, (StVO)

バイエルのモンサント買収のその後とグリホサート

スピリンで有名なドイツの大手医薬品メーカー・バイエルと色々と言われている除草剤グリホサートの製造元・アメリカの大手農薬メーカー・モンサントの買収が決まってから来月9月中旬で約1年。買収金額は660億ドル(約7兆2000億円)だと言われている。この買収でバイエル&モンサント社グループが占める農薬市場、子種市場でのシェアがトップになる。



欧州市場で売り上げが25,000万ユーロ以上(世界規模では売上高が50億ユーロ以上)見込まれる大企業が合併する際には欧州委員会に届ける出る義務がある。これを受け欧州委員会・競争局は欧州競争法の定める独占禁止に反しないかどうか、自由で公正な市場競争が阻害させないかどうかなどを審査する。その結果、競争法に違反という事になると合併・買収に「待った!」が掛かる事になる。



欧州委員会は今回の合併・買収を「農家だけではなく消費者にも影響を及ぼす」と重大視すると共に、市場競争が損なわれる事で価格の高騰、質の低下、選択肢の減少、技術革新の停滞を懸念している。このような弊害が起こらないよう、競争局が慎重に審査を現在行なっていると言う。なお来年1月8日までに審査結果が出されると共に合併・買収が認可されるのか、否かと言う結論が出される事になっている。バイエル社は欧州委員会の審査に全面的に協力するとコメントをだすと共に、年内には欧州委員会の合併・買収許可を得たいと言う。

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ちなみに発がん性の疑いがあるモンサント社の除草剤グリホサート(正しくはラウンドアップという農薬で有効成分がグリホサートだが2017年末に暫定的使用の認可が切れる。それに伴なり欧州委員会は、2017年末までにグリホサートの使用に関し最終結論を出す意向である。現在、欧州化学品庁(ECHA)が発がん性について再調査を行なっており、再認可された場合、グリホサートの使用が今後10年間許可される。

 

一方、グリホサートの禁止使用を求める声も大きい。欧州市民発議の署名が7月3日までに約130万集まっている。(有効署名数は1年で100万人以上)これにより欧州市民からなる市民委員会が欧州委員会にグリホサートの禁止使用を求める発議ができる。なお150万人を目標として署名運動が続けられている。

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ソース。ドイツ環境自然保護連盟、欧州委員会、Zeit-Online、他

あぁ、やっぱり。一度刺さると刺さり続けれアスベストの話。

 

もう一つまとめてアスベストの話

 

ドイツ・ボッホム大学の中皮腫臨床医学研究所がEuropean Respiratory Journalに今年始めに論本を発表している。

 

高い発ガン性で知られているアスベスト(石綿)。

 

石綿は通常2つのグループに分けられる。1つ目は角閃石系の石綿。この鉱物から生成された石綿は種類により青色や茶色をしているものがあり青石綿=クロシドライト、茶石綿=アモサイトなどと言うものがある。

 

日本同様ドイツでも多く使用されていた石綿はクリソタイルという種類である。この石綿は綿の様に柔らかく白い。よって白石綿と呼ばれる事も多い。なおこの繊維の元になっているのは蛇紋石という鉱物であり、なんでも蛇の皮の様な光沢がある鉱石だと聞く。

 

ちなみにこの白石綿の臨床的・病医学的な特長の一つは石綿小体を作りづらいという話を聞いた事がある。なので病巣の一部を摘出し、検査をしてもなかなか繊維が発見されな事も多々ある。

 

そのような事が関係しているのか、以前よりドイツでは石綿繊維、取り分け白石綿の停留に関し議論されてきた。肺に刺さった石綿の一部は免疫細胞に食されてしまうのではないか?または体内のほかの場所に移動してしまうのか?。しかしこの白石綿が患部も確認できなくとも、肺癌など発病している患者も少なく無いため、この現象をドイツでは『ひき逃げ』現象と例えている。つまり悪さし、自分だけその場から逃げてしまうのである。

 

ところが今月ボッホム大学、中皮腫臨床医学研究所が石綿繊維の停留に関する長期調査の結果を発表した。

 

石綿繊維は一度刺さると免疫細胞に消化される事なく、半永久的に刺さったままだと言うが、今回それを証明すべきデーターがまとまった。

 

中皮腫臨床医学研究所の所有するデーターバンク・約2万4千の患者より対象になる12人が選択され、長期的調査が行なわれた。この調査では12人の患者より生前と死後計2回のサンプルリングをおこなわれ、肺組織片内の石綿小体の数を電顕で確認調査をおこなった。各患者は長期の石綿曝歴があり、一部の患者を抜かし、初回の手術で多くの石綿小体が発見されている。また初回の手術より最短で4年、最長で21年後に検死解剖にて肺組織片を新たに採取し石綿小体の数の変化を調査した。なお患者らは最後の石綿曝露より最短でも11年以上、最長で37年の月日が経過している。しかし、それのも係わらず、角閃石系の石綿及び白石綿、両種類が肺組織より検出され、それにより肺組織の奥まで達した石綿繊維は留まったままである事が証明され、また一度刺さってしまうと減少する事もしないという。

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(調査対象基準)

  • 石綿小体がある患者。

  •    手術や気管支肺胞洗浄等で石綿小体が検出されている患者。

  • 生検で500石綿小体 /1g生肺組織が確認されている患者。(一部除く)

  • 死後の解剖で石綿小体が検出されている患者。

  • 初回の手術調査より次の死後解剖調査まで最短で4年以上の月日がある事。

 

今回の調査で生体内持続性がはっきりした事で、今後『治療に役立てる事ができるだろう』という。

 

やはり通常の肺癌と肺に石綿繊維が刺さりつづけているで起こる肺癌とでは薬剤の効果や治療方法が変わってくるだろう。通常の癌であれば癌細胞を治療対象にできるのだが、発ガンを導くものが留まったままだと、薬剤治療はなかなか難しいだろう。しかもこの発ガン性物質はマクロファージの分泌する酸にも強く溶けないのである。

 

最初は「今更何を・・・・」と思ってしまったが、最後「あぁ、やっぱり」と思ってしまう論文だった。

 

動物実験による石綿の毒性によるデーターは多々あるが、流石に人体実験をするわけにはいかない。このように長期データーが収集されたことで一般市民の危険意識が高まれば良いのだが。

 

なお「繊維が発見されない」ー>「労災認定取り消し」という方向に話が飛躍しないよう、注意してほしい。

なお論文のタイトルはThe asbestos fibre burden in human lungs: new insights into the chrysotile debate

アスベスト由来の労災認定について

たまには現在、専門としているアスベスト(石綿)について。

 今月1日よりドイツでは労災認定疾病が5つ増えた。その一つがアスベスト(石綿)由来の卵巣癌である。

 

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今、ドイツで騒がれているディーゼル車からの大きな問題の一つは窒素化合物の持つ高い発がん性だが、これと同様発がん性物質グループ1に属する有害物質のひとつ石綿がある。(発がん性物質グループ1に属するものとして、窒素化合物、石綿、タバコ、プルトニウム、ヒ素など)

 

日本国内では石綿による労災補償や救済の対象になる疾病とし、職業病リストに例示されているのは肺線維症(石綿肺)、悪性中皮腫、肺がん、良性石綿胸水、及び慢性胸膜肥厚であると聞く。

 

ドイツの場合は今日まで次の4点が石綿による職業病して認められていたが、これに石綿由来の卵巣癌が加わる事になった。

(石綿による職業病)

 4103 アスベスト症(石綿肺)およびアスベストに由来する胸膜の疾病。

 410 石綿由来肺癌または咽頭癌

 4105 石綿由来の胸膜・腹膜・心膜の中皮腫

 4114 石綿繊維と多環芳香族炭化水素の相互作用による肺癌

 

世界保健機関 (WHO) は以前から卵巣癌と石綿の関係を指摘しており、ドイツではドイツ連邦労働社会省(BMAS)下の職業病専門委員会(ÄSVB)により各種学術論文の調査及び認定基準の検討が行なわれてきた。

 

通常、呼吸によって取り込まれた粉塵や微粒子の多くは繊毛(線毛)の働きで気管から排出され、気管の粘膜と一緒に経口で排出されるか、または消化器官に運ばれる、最後は食物の残りと共に排泄される。

 

しかし石綿繊維はその細さ故に肺胞の奥へと取り込まれ、沈着する。また一部は肺からリンパ管を通って他の箇所へ運ばれる事も可能である。体内へ石綿という異物が入ってきた為、免疫システムが反応するのだが、異物自体、つまり石綿繊維が消えない為、免疫反応により慢性的に炎症がおこる。これが長期化すると細胞が変化し、ガン化する事がある。

 

今回の調査に関しては石綿の吸入量と卵巣癌との直接的な数字データー、また直接的な臨床所見が無いのだが、多くの学術的論文及び記載のデーターより、職業病専門委員会は『石綿繊維は消化器官の壁を貫通し腹膜などに移行する事もあり、リンパ管だけではなく、血液により体内に運ばれ、また胸腔・腹腔への蓄積も可能』『よって呼吸によって体内に運ばれた石綿繊維は他の癌の原因になる可能性が十分にある』と言う見解に達した。

 

これにより卵巣癌を労災疾病とする結果となり、当時石綿紡績工場などに勤めていた女性達も労災認定の可能性がでてきた。

 

なお認定基準は次の通りである。

●アスベスト症(石綿肺)との関連

石綿繊維に由来する胸膜の疾病との関連

または累積石綿曝露量:「25繊維×年」の立証

 

しかし現実的には労災が認められるまで多くの書類、時間、エネルギーが掛かる。現在ドイツでは毎年約10000人が石綿由来と思われる疾病を発病している。しかし労災認定にいたる数は全体の1/5だと言う。労災認定をした場合、石綿患者に掛かる費用は一人あたり、平均約350,000ユーロ、日本円で約4500万。労災保険を払う側の保険機関にとっても大きな額である為に、容易に労災を認定するわけにはいかないと言う。

 

病気自体への不安、働けない事や病気治療で掛かる費用による経済的負担、この2点が患者と家族に重く圧し掛かる。

 

現在ドイツでは様々な原因により卵巣癌に罹患する女性が毎年約8000人以上だと聞く。少しでも多くの患者に救済の手が差し伸べられる事を切に願いたい。

 

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ソース:ドイツ連邦労働社会省(BMAS)、ドイツ法的職業保険組合(DGUV)、ドイツ公共放送連盟(ARD)レポート“Die tödliche Faser“